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大阪高等裁判所 平成7年(行コ)79号 判決

控訴人

グループ市民の眼

右代表者事務局長

折田泰宏

右訴訟代理人弁護士

新谷正敏

被控訴人

京都府知事

荒巻禎一

右訴訟代理人弁護士

前堀克彦

右指定代理人

高嶋学

外三名

主文

一  原判決主文二項を次のとおり変更する。

二  被控訴人が控訴人に対し、平成二年六月一九日付けでした平成元年度の「交際費に係る資金前渡金受払表」摘要欄中の支出相手方記載部分を非公開とした決定のうち、別表記載の「交際相手名(個人)」が記載されているもののうち、樒代、生花代、灯籠代、香典(平成元年五月一三日、同年六月一八日の二件目、同年七月一四日の二件目、同年九月三〇日、同年一一月二四日、同年一二月二七日及び平成二年一月三一日の三件目に限る。)及び祝金(同年四月二〇日のものを除く。)、並に「交際相手名(団体)」が記載されているもののうち、樒代、供花代、会費についての摘要欄の支出相手方名を非公開とした部分を取り消す。

三  原判決主文二項にかかる控訴人のその余の請求を棄却する。

四  訴訟費用は、第一、二審を通じて、これを五分し、その一を控訴人の負担とし、その余を被控訴人の負担とする。

事実

第一  申立て

一  原判決を次のとおり変更する。

二  被控訴人が控訴人に対し、平成元年度の「交際費に係る資金前渡金受払表」(以下「本件公文書」という。)摘要欄中の名刺印刷代、タバコ代、印刷及び飲料代以外の支出相手方記載部分を非公開とした決定を取り消す。

第二  主張

一  次の二・三のとおり当審の主張を付加するほか、原判決三頁一〇行目から三一頁七行目に記載のとおりであるから、これを引用する。ただし、原判決五頁七行目の「支出相手方」の前に「摘要欄記載の」を加える。

二  被控訴人

1  本件情報のうち「交際相手名(個人)」が記載されているものについて

(一) 樒代、生花代及び灯籠代は、葬式に供したものである。

樒、生花等は、贈り主の氏名が葬儀会場という限られた範囲の人々に対して限られた時間の中で明らかになるに過ぎず、その範囲を超えて、誰にでもいつでも、明らかにされているものではないから、本件情報が一般に公表、披露されることがもともと予定されているものではない。

本件公文書に記載されている交際の相手方名が公開されると、既に公開されている支出金額等と照合することにより、被控訴人が誰にいくらの樒・生花代等を支出したか明確になり、交際の相手方相互の比較が容易に行われ、関係者等は、具体的な支出相手方や支出額等により、他との比較で被控訴人の自分に対する評価等を推測し、その結果として、当然、不満や不快の念を抱き、京都府との友好、信頼、協力等の関係が損なわれ、知事の行う対外的な事務事業に著しい支障をきたすことになるので、本件情報は、本件条例五条六号後段に該当する。

(二) 祝金のうち、平成元年四月一六日、同月二〇日、同月二二日、五月七日、同月二六日(二件とも)、平成二年三月一二日のものは、いずれも結婚祝である。被控訴人は、結婚に関する情報や結婚式の案内を受けた場合、当該個人と京都府政との関わり度合、結婚式の形態及び日程等を考慮のうえ、個別的に、結婚式に出席するかどうかや祝金の額を決定した。平成元年四月二〇日については、結婚式に欠席し、その他には結婚式に出席した。

本件公文書に記載されている交際の相手方が公開されると、被控訴人が誰の結婚式に祝金をいくら支出しているか一覧表的に明確になり、交際の相手方と他との比較が可能となり、(一)と同様の支障が生ずることが明らかであり、本件情報は、本件条例五条六号後段に該当する。

(三) 祝金のうち、平成元年七月六日、平成二年一月二六日の三件目ないし六件目及び同年二月二八日のものは、いずれも受賞祝賀会の祝である。被控訴人は、受賞祝賀会の案内を受けた場合、当該個人と京都府政との関わり度合、祝賀会の形態及び日程等を考慮のうえ、個別的に、受賞祝賀会に出席するかどうかや祝金の額を決定した。受賞祝賀会には、被控訴人又はその代理人が出席した。

本件公文書に記載されている交際の相手方が公開されると、被控訴人が誰の受賞祝賀会に祝金をいくら支出しているか一覧表的に明確になり、交際の相手方と他との比較が可能となり、(一)と同様の支障が生ずることが明らかであり、本件情報は、本件条例五条六号後段に該当する。

(四) 見舞金のうち、平成元年一二月一六日のものは、病気に対する見舞金であり、平成二年一月五日のものは、霊前へのお供えである。

(五) 香典や(四)の霊前への見舞金は、各地域の慣習等に基き、信頼関係等を維持・確保するために、金銭等により弔慰を表すために行うもので、従来から行われている社会慣行であり、その内容を公表することは、慣習的に予定されていない。被控訴人は、故人や遺族との関わり度合等を考慮のうえ、個別的に、香典等を供えるかどうかや金額を決定している。

本件公文書に記載されている、相手方が公表されると、知事が誰にいくら出しているかが一覧表的に明確になり、交際の相手方と他との比較が可能になるのであるから、(一)と同様の支障が生ずることが明らかであり、本件情報は、本件条例五条六号後段に該当する。

(六) また、これらの本件情報は、いずれも、個人が特定され得る情報に当たり、相手方においては私的な出来事であるので、他人に知られたくないと望むことは、社会通念上当然と認められるから、本件条例五条一号にも該当する。

2  本件情報のうち「交際相手名(団体)」が記載されているものについて

(一) 供花代は、葬式に供する花のものである。

これは、1(一)と同じ理由で、本件条例五条六号後段に該当する。

(二) 激励金のうち、平成元年一二月二一日のものは、府庁近隣団体の地域貢献活動に対するもの、平成二年一月三一日と同年二月二二日の二件は、京都府を代表して各種全国大会等に出場する団体に対するものである。

被控訴人は、数多く存在している同種の団体等のなかから、当該団体等と京都府政との関わり合いの度合、内容等を考慮のうえ個別的に、支出の有無や金額を決定していた。

本件公文書に記載されている交際の相手方が公開されると、知事がどの団体等に激励金をいくら出しているかが一覧表的に明確になり、交際の相手方と他との比較が可能になるから、1(一)と同様の支障が生ずることは明かであり、本件条例五条六号後段に該当する。

なお、これらの団体が公益的団体であろうとなかろうと、当該団体等の役員、会員、会合の出席者等限られた範囲の人々が、知事がどの団体等にいくらの激励金を出したかを知りうるに過ぎず、その範囲を超えて誰にでも、いつでも明らかにされているものではないから、本件情報は、一般に公表・披露されることが予定されているものではない。

(三) 祝金のうち、平成二年一月八日、同月一〇日及び同月一六日のものは、いずれも、文化関係団体の会合祝、同月二二日のものは、経済関係団体の会合祝、同月二四日の一件目と同月二六日の一件目は、府民運動団体の会合祝、同月二四日の二件目はスポーツ関係団体の会合祝、同月二六日の二件目は、政治関係団体の会合祝である。被控訴人は、各種団体から、会合への出席依頼があった場合、依頼のあった団体等と同種の団体等が数多く存在していることもあるので、当該団体等と京都府政との関わり度合、その会合の趣旨、目的、形態及び日程等を考慮のうえ、個別に出席するかどうかや祝金の額を決定した。本件公文書に記載されている交際の相手方が公開されると、知事がどの会合に祝金をいくら出しているかが一覧表的に明確になり、交際の相手方と他との比較が可能になるから、1(一)と同様の支障が生ずることは明らかであり、本件条例五条六号後段に該当する。

なお、本件情報は、(二)同様、一般に公表・披露されることが予定されているものではない。

(四) 会費のうち、平成二年一月二九日のものは、民主主義の向上発展と世界平和に寄与することを目的として設立され、議会政治や世界平和に関する調査・研究、出版物の刊行・講演会の開催等の事業を行っている財団法人の会の運営のために必要な費用を負担したもの、同年三月一七日のものは、府民運動団体の一回の会合のために必要な費用を負担したもの、同年一月三〇日と同年三月三〇日のものは、政治・経済・文化の発展向上に寄与することを目的として設立され、内外諸情勢にかかる情報提供、政治・経済・文化関係の講演会・セミナー等の開催等の事業を行っている文化関係団体の会の運営のために必要な費用を負担したものである。被控訴人は、各種団体から会への加入あるいは会への出席の依頼のあった場合、依頼のあった団体等と同種の団体等が数多く存在していることもあるので、当該団体等と京都府政との関わり合いの度合、その会の活動趣旨、目的、形態及び日程等を考慮のうえ、個別的に加入あるいは出席するかどうかを決定した。被控訴人が会に属していることや会に出席することを秘密にするかどうかは、当該団体等が判断することであり、京都府としては、積極的に公表していない。なお、これらの団体には、知事がポスト指定され加入しているものはない。

本件公文書に記載されている交際の相手方が公開されると、知事がどの会に加入ないし出席し、会費をいくら出しているかが一覧表的に明確になり、交際の相手方と他との比較が可能になるから、1(一)と同様の支障が生ずることは明らかであり、本件条例五条六号後段に該当する。

なお、本件情報は、(二)同様、一般に公表・披露されることが予定されているものではない。

三  控訴人

1  本件情報のうち、相手方の氏名等の公表・披露が当然予想されるもの、相手方の氏名等の公表が社会通念上相手方に不快や不信の念を抱かせることが予想できないもの、相手方に不快や不信の念を抱かせるとしても、交際事務の目的が達成できないなどの支障が予想されないものは、本件条例五条六号後段に該当しない。

また、私人が相手方の本件情報も、その性質、内容等からして交際内容等が一般に公開・披露されることがもともと予定されている場合だけでなく、私的な出来事とは言えない場合も、本件条例五条一号に該当しない。

2  本件情報は、次のとおり、いずれも本件条例五条六号後段にも、同条一号にも該当しない。

(一) 生花、供花、樒、灯籠代について

これらは、京都府知事名を付して一般参列者の目にふれる場所に飾られるのが通例であり、葬儀は密室ではなく、報道関係者も参加し、これを報道することも自由な状況で行われるのであるから、一般に公開されることがもともと予定されているとみるべきである。これらに関する本件情報は、本件条例五条六号後段にも一号にも該当しない。

(二) 香典について

香典については、その公表により不快や不信を抱かせる故人は存在しないから、少なくとも本件条例五条六号後段には該当しない。

(三) 結婚祝について

結婚祝は、金額が一万円の二件を除き、その他は三万円と画一的であり、公開されても金額の比較で不快や不信を抱くことはあり得ない。また、知事がこのような祝の席に出席することは秘密ではなく、公にされても、相手方に不快や不信の念を抱かせるとは到底考えられない。京都府政との関わり度合で出席の有無、金額が決定されるのであれば、純粋な私的出来事でもない。

(四) 受賞祝賀会祝金について

受賞祝賀会に出席すること自体、何ら秘密にするべきことではなく、これが公にされても、相手方に不快や不信の念を抱かせるとは到底考えられない。また、受賞自体は私的な出来事であっても、祝賀会自体は私的な出来事ではなく、この祝金は、会合に招待された際に会費に代わるものとして支出されたとみられる。

(五) 激励金について

激励金も何ら秘密にすべきことではなく、公開されても相手方が不快・不信の念を抱くとは到底考えられない。

(六) 会合祝について

会合祝も何ら秘密にすべきことではなく、公開されても相手方が不快や不信の念を抱くとは到底想定できない。これらの祝金は会合に招待された被控訴人が会費に代わるものとして支出したものとみるべきである。

(七) 会費について

財団法人はもちろんのこと文化関係団体も公益的団体であることが容易に推測され、知事が関係していることについて何ら秘密を要しない事柄である。これらの団体は知事から会費を得ることにより利益にこそなれ、不快や不満の念を抱き、信頼関係・協力関係が損なわれることは到底考えられない。また、知事の関与は公開すべきで秘密にすべきものではない。

(八) なお、(三)結婚祝ないし(六)会合祝については、相手方は、知事の出席や支出金を出席者全員に公にして相手方の名誉を誇示するのが普通であり、知事の出席や支出を出席者以外に知られたくないとは考え難く、公表することが知事に対する礼儀でもある。

理由

一  本件条例の規定、知事交際費支出の方法、本件公文書の記載内容等についての事実認定、本件条例五条六号の合憲性、本件情報の本件条例五条六号前段該当性及び本件情報のうち「交際相手名(団体)」の本件条例五条三号該当性についての判断は、次のとおり加除・訂正するほか、原判決三一頁一〇行目から四二頁末行及び五三頁三行目から五四頁六行目に記載のとおりであるから、これを引用する。

1  原判決三三頁七行目末尾に「本件公文書の摘要欄に記載の支出相手方の個人、団体、取引業者別は別表記載内容のとおりである。」を加える。

2  同三五頁五行目の「行う」の次に「取締り、監督、立入検査、試験、入札、交渉、渉外、その他の」を加える。

3  同三六頁一行目の次に「なお、基準によると、『交渉』とは相手方との話合いによる取決めを行うことをいい、補償、賠償に係る交渉、土地等の売買に係る交渉等があるとされ、『渉外』とは、外国、国、地方公共団体、民間団体等と行う接遇、儀礼、交際等の対外的事務事業をいうとされている。」を加える。

二  本件条例五条六号後段該当性について

本件に係る知事の関係者等との交際は、相手方との間の信頼関係ないし友好関係の維持増進を目的として行われる儀礼的交際事務であり、それ自体が交渉等事務に当たるとは言い難いが、広い意味で、府行政の円滑な運営を図ることを究極的目的として行われるものであるから、本条例五条六号後段の「交渉、渉外、その他」のうちの少なくとも「その他」の事務に含まれると解される。

そして、相手方の氏名等の公表・披露が当然予定されているような場合を別として、相手方を識別し得るような情報の公開によって相手方の氏名等が明らかにされることになれば、一般に、交際費の支出の要否、内容等は、府の相手方とのかかわり等を斟酌して個別的に決定されるものであるから、不満や不快の念を抱く者がでることは容易に予想される。そのような事態は、交際の相手方との間の信頼関係あるいは友好関係を損なうおそれがあり、交際それ自体の目的に反し、ひいては交際事務の目的が達成できなくなるおそれがある。さらに、これらの交際費の支出の要否やその内容等は、支出権者である知事自身が、個別、具体的な事例ごとに、裁量によって決定すべきものであるところ、交際の相手方や内容等が逐一公開されることとなった場合には、知事においても右のような事態が生ずることを懸念して、必要な交際費の支出を差し控え、あるいはその支出を画一的にすることを余儀なくされることも考えられ、知事の交際事務を適切に行うことに著しい支障を及ぼすおそれもある。

したがって、本件公文書のうち交際の相手方が識別されうるものは、交際内容が外部に披露され、一般の目にとまるようなもの(例えば、葬儀の際の生花や行事への寄附でその内容が掲示されるようなもの)や交際内容からして、特に非公開を前提としておらず、他との比較が問題とならないなど、相手方の氏名等を公表することによって前記のような相手方に不満や不快の念を抱かせるおそれがあるとは認められないようなものを除き、本件条例五条六号後段により、公開しないことができる情報に該当するというべきである。

三  本件条例五条一号の該当性について

本条例五条一号は、私事に関する情報のうち性質上公開に親しまないような個人情報が記録されている文書を公開してはならないとしているものと解され、知事の交際の相手方となった個人としては、その具体的な費用、金額等まで一般に他人に知られたくないと望むものであり、そのことは正当である。このような交際に関する情報は、その交際の性質、内容等からして交際内容等が一般に公表・披露されることがもともと予定されているものやその内容を秘匿しておくことが一般に承認されていないものを除いては、同号に該当するというべきである。

したがって、本件公文書のうち私人である相手方に係るものは、原則として、同号により公開してはならない情報に該当するというべきである。

そこで、以下、本件情報について、これを公開しても、前記支障が生じるおそれがあるか否かや私事に関する情報で秘匿しておくことが一般に承認されているか否かなどについて、個別的に検討し、本件条例五条六号後段及び同条一号該当性を考えることにする。

四  本件情報のうち「交際相手名(個人)」が記載されているものの本件条例五条六号後段及び同条一号該当性について

1 樒代、生花代及び灯籠代(これらの支出目的は本件公文書摘要欄に記載のものである。以下同じ。)

甲二号証及び弁論の全趣旨によると、その樒、生花及び灯籠は、葬儀に供したものと認められる。これらは、葬儀に際し京都府知事の名を付して一般参列者の目に触れられる場所に飾られ、報道機関関係者等が参列し、これを報道することが禁止されるわけでもないのが通例であり、一般に公開されることが、もともと予定されているものと認められる。

したがって、これらの相手方名は、本件条例五条一号、六号後段には該当せず、公開されるべきである。

2 香典及び霊前への見舞金

甲二号証及び弁論の全趣旨によると、平成二年一月五日の見舞金は霊前へのお供えであることが認められる。この見舞金や香典も、弔慰のためのものであるが、1の樒などとは異なり、一般参列者の目に触れられる場所に飾られることなどによって、香典及び霊前への見舞金(以下「香典等」という。)が供えられたことが一般に公開されるものではないのが通例であるから、本件条例五条一号により相手方名を公開しないことが許される。

しかし、甲二号証によると、本件公文書に香典と記載されているもののうち、平成元年五月一三日のものは三三七〇円、六月一八日の二件目のものは二七二〇円、七月一四日の二件目のものは二万八三三〇円、九月三〇日のものは七七一〇円、一一月二四日のものは一万四一九六円、一二月二七日のものは二万三四六〇円、平成二年一月三一日の三件目のものは一万二〇〇〇円であるがこのような中途半端な金額は、香典の金額とはならないのが通常である。そうすると、このような金額の香典が本件公文書に記載の相手方に供えられたと信じることはできない。証人南北幸雄の証言中には、当時秘書課長であった同人が、公金からではなく、個人の金から付加的に支出し、あわせて本件公文書記載の相手方に知事からの香典として供えたが、その個人支出金は公金より戻して貰っていないとの部分がある。しかし、公務員個人が最高の上司である知事の公の交際のための費用を個人的に支出負担することは通常ありえないことであるから、右証言部分を採用することはできない。

右のとおり、右七件については、本件公文書に記載の相手方に現実に香典が供えられたとは認められず、本件公文書に記載の相手方に関する真実の情報が記載されているとは認められないから、本件条例五条一号、六号後段の適用はなく、記載の相手方名を公開しないことは許されない。

3 結婚祝

甲二号証及び弁論の全趣旨によると、祝金のうち、平成元年四月一六日、同月二〇日、同月二二日、五月七日、同月二六日(二件とも)、平成二年三月一二日のものは、いずれも結婚祝であり、平成元年四月二〇日以外のものは、招待されて被控訴人が結婚披露宴に出席しており、出席した場合の金額は、同年五月七日のものを除いて一律に三万円であること及び知事が結婚披露宴に出席すること自体は秘密ではないことが認められる。

結婚披露宴には通常多数の人が出席するから、知事の出席は公表されているのと同様である。そして、結婚披露宴に出席した者が祝金を贈る習慣があることは当裁判所に顕著であるから、この交際の相手方の氏名の披露が当然予定されているというべきである。

よって、結婚祝のうち、平成元年四月二〇日のもの以外は、相手方名を公開しないことは許されない。

しかし、右一件については、右おそれが認められ、本条例五条六号後段及び一号により、相手方名を公開しないことが許される。

4 受賞祝賀会の祝金

弁論の全趣旨によると、祝金のうち、平成元年七月六日、平成二年一月二六日の三件目ないし六件目及び同年二月二八日のものは、いずれも受賞祝賀会の祝であり、受賞祝賀会には、被控訴人又はその代理人が出席したこと及び受賞祝賀会に知事やその代理人が出席すること自体は秘密ではないことが認められる。

祝賀会に招待されて出席した場合、相応の祝金を贈る習慣のあることは当裁判所に顕著であるから、この交際の相手方の氏名等の披露は当然予定されているというべきである。

よって、受賞祝賀会の祝金の相手方名を公開しないことは許されない。

5 病気に対する見舞金

甲二号証及び弁論の全趣旨によると、平成元年一二月一六日のものは、病気に対するものと認められ、本件条例五条一号により相手方名を公開しないことが許される。

五  本件情報のうち「交際相手名(団体)」が記載されているものの本件条例五条六号後段該当性について

1 樒代、供花

甲二号証及び弁論の全趣旨によると、樒、供花は葬式に供したものであることが認められる。この供花は、四1の樒、生花等と同様、葬儀に際し京都府知事の名を付して一般参列者の目に触れる場所に飾られるのが通例であり、一般に公開されることがもともと予定されていたと認められ、本件条例五条六号後段の適用はなく、相手方名を公開されるべきである。

2 激励金

甲二号証及び弁論の全趣旨によると、激励金のうち、平成元年一二月二一日のものは、府庁近隣団体の地域貢献活動に対するもの、平成二年一月三一日と同年二月二二日の二件は、京都府を代表して各種全国大会等に出場する団体に対するものであることが認められる。

激励金は、儀礼的な交際とは異なり、個々の活動の趣旨などにより、その必要性や効果などを個別的に検討して決定されるものと解され、公開によって相手方に不満や不快の念を抱くものができることが予測されるから、激励金についての本件公文書の相手方の記載部分は、本件条例五条六号後段により、公開しないことが許される。

3 祝金

甲二号証及び弁論の全趣旨によると、平成二年一月八日、同月一〇日及び同月一六日のものは、いずれも、文化関係団体が、同月二二日のものは、経済関係団体が、同月二四日の一件目と同月二六日の一件目は、府民運動団体が、同月二四日の二件目はスポーツ関係団体が、同月二六日の二件目は、政治関係団体が、新春に当たり催した会合に際し贈られた会合祝であること、知事がこの種の会合に出席することもあることが認められる。しかし、右の八件の会合については、知事が出席したかどうか、右の文化関係団体、府民運動団体が次項4の文化関係団体、府民運動団体と同一のものであるかどうかは明らかではない。

これらは、会合祝というやや形式的な交際であるが、この交際が、相手方団体の名の公表、披露が当然に予定されているなどにより、知事の交際事務を適切に行うことに著しい支障を及ぼすおそれが認められないとまですることはできない。

そうすると、これらの祝金の相手方名は、本件条例五条六号後段の適用により、公開しないことが許される。

4 会費

甲二号証及び弁論の全趣旨によると、会費のうち、平成二年一月二九日のものは、民主主義の向上発展と世界平和に寄与することを目的として設立され、議会政治や世界平和に関する調査・研究、出版物の刊行・講演会の開催等の事業を行っている財団法人の会の運営のために必要な費用を負担したもの、同年三月一七日のものは、府民運動団体の一回の会合のために必要な費用を負担したもの、同年一月三〇日と同年三月三〇日のものは、政治・経済・文化の発展向上に寄与することを目的として設立され、内外諸情勢にかかる情報提供、政治・経済・文化関係の講演会・セミナー等の開催等の事業を行っている文化関係団体の会の運営のために必要な費用を負担したものであり、これらの団体には、知事がポスト指定され加入しているものはないこと及び被控訴人がこれらの団体に加入していることなどを京都府が秘密にしているわけではなく、加入等を公表するか否かは当該団体などの判断に任されていることが認められる。

会に加入して会員となれば、会の運営または会の行事のため必要な費用に充てるため会費を負担することは通常であるところ、京都府は知事がその会に加入していることを積極的に公表していないものの、加入を秘密にしていないことからすると、知事がどの会に加入していることが公表されても、当該または同種の事務の公正かつ適切な執行に生ずるおそれのある支障が著しいものではないと考えているものと認められる。

そうすると、これらの会費の団体名には、本件条例五条六号後段の適用はなく、公開されるべきである。

六  結論

以上検討したところによると、主文二項記載の支出相手方名を公開すべきであり、これらの本件情報を非公開とした部分の本件処分は違法であり取り消すべきである。原判決主文二項にかかるその余の請求は理由がない。

よって主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官井関正裕 裁判官河田貢 裁判官佐藤明)

別紙〈省略〉

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